2016年10月18日火曜日

過払金の時効(CMの嘘)

 テレビCMを多く流している法律事務所のCMでは,「過払金請求には期限があります。」「時効は10年です。」「過払金返還請求が認められてから今年で10年です」「お急ぎください」というような内容を話しています。
 これを聞くと,一般の人は,今年までしか請求できないのではないかと思うのではないでしょうか。
 法律家ではない,私の友人や親族に話をきいたところ,ほとんどの人が,今年までの請求というように受け取っていました。
 
 過払金返還請求については,1連の取引については,最終取引時点から,10年で消滅時効にかかるとされており,期限があることや時効が10年であること自体は,そのとおりなのですが,今年までということはありません。

 過払金返還請求自体が判例上認められていたのは,ずっと以前からです。
 平成18年とは,各消費者金融が契約上利用していた期限の利益喪失約款があることで,みなし弁済の適用がほとんど認められないという最高裁判例が出た年で,それまでは,過払金返還請求訴訟を起こすと必ずでていたみなし弁済の抗弁(貸金業者の反論)が使えなくなったため,貸金業者が裁判外での過払金返還請求に応じるようになったという変化があったにすぎません。

 取引がずっと続いていれば,最終取引から10年間過払金請求できますが,途中で契約切り替えや完済・再度契約後取引開始などしていると,複数の取引と判断され,以前の分の過払金につては,その時点から10年の時効にかかってしまいます。
 
 ですから,請求は早いに越したことはないのですが,一般人に誤解を与えて,せかすような内容のCMは,よくないと思いますし,弁護士職務基本規定違反になりそうだなと感じたりしています。

2016年10月13日木曜日

相続,事業承継問題

 相続や事業承継に関する相談も最近多くなってきているが,相続や事業承継に関する問題は,関係当事者間で思いや希望が異なり,また,案件ごとに事情がことなるので,基本的には,事情をお聞きしてから,個別のプランを作成して提案することになります。

 しかしながら,相続や事業承継について,どうしていいかわからず,弁護士に相談にいくという発想にもいたらない方に対しては,事前に,いくつかのプランをパッケージとして告知し,御相談いただいた後に,個別事情を考慮した変更を加えるというような提案のしかたのほうがわかりやすく,気軽に御相談いただけるのではないかと思うようになりました。

 相続,事業承継に関しては,①もめたくない,②死んだあとにきちんと自分の思うとおりになってほしい,③お墓の管理をきちんとしてほしい,④節税,という希望が多く,これらを満たすために,様々な方法(信託,生前贈与,遺言,保険,不動産の処理など)があります。

 このような希望があるときはこのような方法がありますというようなパッケージプランをわかりやすく提示できるように,現在,案内資料を作成しています。完成しましたら,HP上に掲載したいと思います。

残業代請求

 ニュースでは過払請求の後は,残業代請求が増えるなどととりあげられているが,残業代請求は,過払請求と違って,以下の点があるので,過払請求のかわりになるほど請求が増えるということはないと思われます。

1 請求のための労働時間に関する資料がない,または,資料があっても労働時間の算出が困難

 過払請求は,金融機関が取引履歴を開示してくれましたが,残業代請求では,タイムカード等の労働時間を明確に示すものがなく(あっても実態を反映していない),パソコンのログイン時刻や会社のセキュリティロック時刻,日報,メールなどから労働時間を算出しないといけないので,1事件ごとに処理方法が異なります。
 このため,定型的な処理がしにくいという差があります。

2 残業代請求に耐えられない会社もある
  財務状況がしっかりしている会社ならいいですが,2,3人が 残業代請求をすると会社のキャッシュフローが回らなくなるようなところもあります。
  法律上の請求はできても,実際に回収できなくなることも考えられ,会社がつぶれると困ると言う場合は,低額の和解をせざるを得ない場合も出てきます。

3 勤務を継続したままでは,請求がしにくい。
  残業代請求は,法律上当然の権利行使ですが,会社によっては,「言うことをきかない奴」という印象をいただき,仕事を継続するにあたって有形無形の支障が出る可能性があることは否定できません。
  もちろん,残業代請求をしたことで,不利益を与えることは許されず,そのようなことがあれば損害賠償できますが,現実に支障がでる可能性があり,損害賠償請求のためには明確な証拠が必要なため,やはり,一定の覚悟が必要かと思います。
  このため,仕事を続けながらの残業代請求のハードルは高く,請求をためらうことになります。

4 消滅時効が2年
  雇用契約の報酬(給与)の消滅時効は請求できるとき(通常の支払日)から2年で消滅時効にかかるものとされており,請求時から2年分の残業代しか請求できないとされています。
  長期間,残業が発生していたとしても,2年分までしか請求できないため,過払請求より,請求額が低いこともあります。
  
以上のような差がありますが,人によっては,残業代だけで,1月20万円以上あり,2年分で500万円近い請求ができる場合もありますので,残業代請求を考えている方は,まず,弁護士に相談されることをおすすめします(会社と直接交渉する場合でも,残業代請求の証拠を事前に集めておくなどのアドバイスを弁護士から受けてからのほうがよいです)


2016年10月6日木曜日

名誉毀損の書き込みについての損害賠償額

 名誉毀損の書き込みについての損害賠償は,概ね,慰謝料と発信者特定にかかった弁護士費用でしょうが,裁判で判決となった場合の認容額は,書き込みの内容や回数,あとは判断をする裁判官によっても変動します。

 従来は,名誉毀損の慰謝料は100万円を超えないといわれてきましたが,近時は,100万円を超える判断をする裁判例もちらほらでているようです。
 昔は,離婚の慰謝料は200万円を超えないといわれていましたが,近時は200万円を超える判断もあるように,慰謝料に関する裁判官の考え方も少しづつかわってきているようです。

 損害賠償額が多い方の事例と思われますが,
大津地裁彦根支部の平成27年1月22日判決(確定したかは不明です)では,インターネット上の掲示板に書き込みがなされ,名誉や名誉感情の毀損及びプライバシー権侵害による損害賠償を求めた事案(請求額 慰謝料400万円 発信者特定のための弁護士費用約87万円)で,慰謝料150万円,発信者特定のための弁護士費用45万円の合計195万円が認められています。

 一方,請求する相手に資力がないと,判決をとっても,回収できないことになりますが,事前に相手方の資力がわからないことが多く,難しいところです。