2025年9月4日木曜日

令和8年施行の養育費関連の改正 いつからの分から適用されるか

  弁護士になる前に、主だった法律について勉強をして覚えるわけですが、弁護士になってからも、専門分野の法律を覚えて理解する必要がありますし、覚えていた法律も、法改正があって変更になったり、法律自体が変わらなくても新しい裁判例がでて違った形に解釈しなおされたりします。

 令和8年施行の民法改正も養育費関連で改正がありました。


1 養育費債権に先取特権を付与

 先取特権というのは、債務者の特定の財産(または総財産)から他の債権者よりも優先して弁済(支払い)を受けることができる、担保物権の一種です。

 養育費を支払ってもらえないという場合に、今までと大きく違うのは、調停や裁判などで養育費を定めていなくても、養育費を定める合意書等があればすぐに強制執行ができるということです。ただし、この額については、定めた養育費の額と8万円(予定)とで低い方の額とされます。

 先取特権の執行のためには、先取特権の存在を証する文書が必要になります。(民事執行法193条)

 この先取特権の存在を証する文書として問題ないように養育費の合意書を作成しておく必要があります。

 この先取特権が適用されるのは、施行日以降に発生した養育費の分だけです。(改正法附則3条1項)施行日はいまのところ決まっていませんが、令和8年5月までに施行されることになっています。


2 法定養育費の設定

 今までは、離婚後も、具体的な養育費を合意で定めるか裁判所によって定めるかしないと、養育費の具体的な請求ができないとされてきました。裁判手続で養育費請求をすると、相当な額を審理して定まった養育費の額(月額)について、請求時からカウントした額の支払いが認められることにはなっていましたが、裁判申立前や審理中は原則として支払いを受けることができませんでした。

 改正により、「父母が子の監護に要する費用の分担についての定めをすることなく協議上の離婚をした」場合には、法定養育費を子の監護をしている側から相手側に請求できることになります。この法定養育費の額は月額2万円が予定されているようです。

 2万円よりも多くの養育費が必要な場合は、従来通り、養育費を定める調停・審判手続をすることになりますが、審理中や申立前も2万円は請求することができるようになります。

 法定養育費は、合意や裁判所により養育費が定められるか、子供が18歳になるまで生じます。

 この法定養育費については、法律施行日以降に離婚をしたものについて適用されます。(改正法附則3条2項)

法務省解説 youtube 離婚後の子の養育に関する 民法等の改正について

3 以上のとおりであり、改正法施行後や施行後を見据えて、養育費の取り決めについては、すぐに強制執行できるように、弁護士に合意書を作成または確認してもらったりしたほうがよさそうです。

瀬戸法律事務所 弁護士 瀬戸伸一

2025年9月3日水曜日

TikTokの開示請求


 
1 TikTokとは

 ショート動画投稿サイトですが、動画内で誹謗中傷や名誉毀損その他の権利侵害はありえます。また、動画説明として文字の掲載が可能なので文字による権利侵害はありえます。

 TikTok登録の際は電子メールアドレスまたは電話番号の登録が必要になります。その他SNS連携による登録も可能となっていますが、Twitterによる連携の場合は近時、電話番号の追加登録が求められるようになったようで、不確定ながら、SNS連携の登録の場合も、電子メールアドレスまたは電話番号がTikTokに登録されているのではないでしょうか。

 また、数年前に登録したアカウントについては、電子メールアドレスも電話番号も登録せずに登録ができたようなので、いずれも登録されていないという例もあるようです。


2 通信ルートによる特定

 発信者情報開示命令(裁判所を使った手続)の際の提供命令を使った場合、TikTokは情報を開示してきますが、開示のスピードは遅いようです。当職が担当した事例では1ヶ月以上要する例がありました。

 携帯電話会社の通信を利用している場合、通信から3か月以上経過すると通信ログが残っていないことから、提供命令を使用した通信ルートの開示は時間切れになる可能性があります。

 代理人がついた後での開示命令に対しては、開示命令について異議がない場合という前提ですが、確定をまたずに、迅速に発信者情報を開示する傾向があるようです。

 提供命令を利用せず、IPアドレス等の情報も開示命令だけで取得してもよいかもしれません。


3 電子メールアドレス・電話番号ルート

  前述のように、電子メールアドレスも電話番号も登録されておらず特定ができないという可能性はありえます。

 また、電子メールアドレスが登録されている場合も、フリーメールの場合、結局、発信者が誰か特定できないという可能性はあります。

 電話番号が登録されている場合、日本国内の事業者のものと思われますので、基本的には、弁護士会照会による照会で、契約者情報(電話番号を契約した人)がでてきて、発信者の特定ができることが多いです。

4 まとめ

 TikTokの場合、他のSNSと同じように、SNS事業者への登録内容により、発信者を特定できる場合とできない場合とがあります。これは、開示手続きをやってみないとわかりません。

瀬戸法律事務所 弁護士 瀬戸伸一

2025年9月2日火曜日

Twitter(X)の開示請求 まとめ(2025年)

  2024年年末から2025年前半にかけて、Twitter(X)に対して、裁判手続きを使った開示請求を行った結果のまとめを記載します。


1 通信経路ルート

 まず、X社は、発信者情報開示命令手続の際の提供命令には応じないため、開示命令でIPアドレス、タイムスタンプの開示を求めるか、仮処分命令申立によりIPアドレス、タイムスタンプの開示を求めなければなりません。

 仮処分命令申立の方式は、手続が速い一方で、開示命令申立を一緒に行うと仮処分と開示命令の双方の期日を同一で開くことになるため、1日でも急ぐ場合は仮処分命令申立だけ先行させたほうがよいと思われます。

 また、仮処分命令については、発令のために、裁判所から指示があってから1週間以内に東京法務局へ供託をして、供託書(の写し)を東京地裁へ提出する必要があるため、遠方の方(代理人)は基本的に東京へ行く必要があると思われます。オンライン供託はできますが、供託書を入手するために、供託後東京法務局へ郵送のための封筒等の郵送→東京法務局からの返送→供託書の写しを裁判所へ郵送の手順を経ると1週間は優に過ぎてしまうからです。

 また、仮処分命令が発令されても、それだけでは、X社は、任意に情報を開示しません。仮処分命令が発令されたらすぐに送達証明書を取得して、強制執行の申立をしないといけません。仮処分命令については2週間で強制執行できなくなります。

 開示命令の場合は、命令がでてから確定まで1ヶ月かかります。(情報流通プラットフォーム対処法14条1項、5項)

 1ヶ月経過した後、送達証明書、確定証明書を取得して強制執行申立をして、初めて開示されます。

 X社については、開示のためには強制執行が必要と考えておきましょう。強制執行申立をして裁判所からX社へ履行の催告がなされるとすぐに開示が行われることが多いようです。


2 電子メールアドレス、電話番号ルート

 上記のとおり、開示までに時間がかかるので、通信経路ルートでは、3か月しか通信ログをもっていない携帯電話会社の通信の利用が多い今般では、時間切れになる可能性がかなり高いです。

 このため、X社に登録してある電子メールアドレス、電話番号のルートから特定する必要があります。

 しかしながら、電子メールアドレスは、gmailなどのフリーメールアドレスの場合は結局発信者が誰か特定できないということになることが多く、また、Twitter(X)では、電子メールアドレスだけの登録でアカウントを作成していることも結構多いため、特定できないというリスクは結構高いです。

 電話番号が登録されていれば、ほとんど日本国内の事業者の電話番号でしょうから、その後、弁護士会照会等で契約者(発信者)を特定することができると思われます。

3 まとめ

 上記のとおり、できるだけ特定をしようとすると、仮処分申立てと開示命令申立の併用ということになり、双方とも強制執行申立が必要になります。

 また、遠方の方や代理人に依頼をすると、東京への出張交通費や日当も必要なろうかと思います。

 任意に開示をする他の業者と比べると開示のための手続が多くなることから、費用(弁護士費用)も多額になると思われます。


瀬戸法律事務所 弁護士 瀬戸伸一