2017年2月21日火曜日

インターネットにおける誹謗中傷,名誉毀損,いじめ等(ネット被害)に対する正しい対応方法

 インターネットにおける誹謗中傷,名誉毀損,いじめやいわゆる炎上等のネット被害に対する正しい対応方法

 私がインターネットを使用しだした約20年前の1996年(平成8年)ころは,ネット使用者も少なく,また,生活に不可欠なものではありませんでした。
 次第に,ネットの利用者が増え,多くの情報が供給され,また,ネットの利用により利便を感じるようになると,生活において重要になってきだしました。
 
 そのような中で,ネット上で,誹謗中傷,名誉毀損,いじめや自己に関する多数の書き込みが短時間でなされること(いわゆる炎上)があると,これを気に病み,精神的被害を受ける方が増え始めました。
 3年くらい前までは,このような事案があった場合の被害の中心は,自分が感じる嫌悪感であり,自分の周りの知人,他人はそのようなネット上の誹謗中傷等は全くしらないということも多く,「自分が気にしなければ解決」ということも多くありました。
 また,古くからのネット上の俗語に「消すと増える」というものがあり,これは,書き込みの削除要請をすると逆に新しい書き込みが増えるので,そのままにしておいたほうが沈静化するという意味を含んでいました。
 このような状況は,まだネット利用が大多数人まで普及しておらず,誹謗中傷等を行う者が特定の少数であったため,その特定少数の気を引かなければ,誹謗中傷等の事案は沈静化していたという事情から生み出されていたものと思います。

 しかしながら,日本のスマートフォン所持率が,
2010年 約10%
2011年 約17%
2012年 約31%
2013年 約45%
2014年 約60%
2015年 約70%
と伸びてきた現在においては,大多数人が情報を得るメディアの1つとしてネットを利用しており,また,私生活,ビジネスにおいても,ネット上の自分の情報が自分に影響を及ぼすことが多くなってきました。
 
 そのような中で,今までは,誹謗中傷等を行ってこなかった人達が,ネット上では自分のやっていることが絶対にわからないという安易な幻想に踊らされて,他人の誹謗中傷等を行うようになってきました。
 
 このような状況では,いままでのように,気にせずそのままにしておくこともできず(ネット上の情報をみた自分のまわりの人にも影響を及ぼし,自分の社会的評価にもかかわるようになる),また,放置しておくと,誹謗中傷等を行っている者は,「やはり,やっているのは自分とはわからないんだ」と思って,さらにエスカレートすることになります。

 ですので,現在においては,誹謗中傷,名誉毀損,いじめやいわゆる炎上等のネット被害については,以前のように,我慢をして沈静化するのを待つよりも,誹謗中傷,名誉毀損,いじめやいわゆる炎上に対して,戦う姿勢を見せることのほうが良い結果となると言っていいと思います

 また,このようなネット被害については,やはり,被害者が精神的にまいってしまうということが多く,解決までに,加害者と戦っているんだという気持ちを持って,前向きに生活していけること自体が,一定の被害回復という側面があると思います。

 私は,そのようなネット被害と戦って前に進む皆様に,お力添えできればと思います。

2017年2月8日水曜日

法的な請求が難しい場合で,インターネット上の書き込みを消したり,新しい書き込みをやめさせる方法

  法律(プロバイダ責任制限法)に基づくインターネット上の書き込み(記事)の削除や書き込んだ人の特定(発信者情報開示)は,法律に記載された要件を満たす必要があり,その書き込み内容によっては,要件を満たさない可能性が高くないなど法的な請求が難しい場合があります。

 そのような場合でも,インターネット上の書き込みを消したり(削除),新しい書き込みがなされないようにするための方法はあります。

 まず,インターネット上の書き込みが書き込み者が管理する媒体以外のもの(たとえば,書き込み者とは別の運営会社が運営する電子掲示板など)であれば,裁判にかけた場合に要件を満たさないと判断される可能性があっても,とりあえず,法律上の要件を満たすとの理由をつけて(この点で専門家でないと難しいとおもいます),電子掲示板の運営者等に訴訟外での削除要請(要請についてはガイドラインに沿ったもの)をします。
 すると,削除要請を受けた電子掲示板の運営者等は,以後,書き込みを削除しなかった場合に,書き込みが権利侵害であった時には損害賠償請求を受ける立場になります。
 このため,争いを好まない電子掲示板の運営者等は,損害賠償請求や訴訟を起こされるリスクを避けるために,書き込みの削除に応じる場合も少なくないです。

 また,最終的に発信者情報の開示請求が認められない(現在は,書き込み者の氏名,住所の開示のためにはほとんど訴訟が必要)場合でも,書き込みのIPアドレス等の開示後,訴訟外の発信者情報開示請求を行うことで,書き込み者がつかっている携帯電話会社やプロバイダから,照会書(発信者情報開示請求がきたので,反論等あれば出してほしい等の内容)が行くので,だれか分からないだろうと安易に考えていた書き込み者は,事態の深刻さを理解することとなり,以後の書き込みを控えるようになる場合もあります。

 さらに,発信者の特定ができていない状況でも,書き込みを行ったであろう人物に,仮に書き込みを行っていれば削除をしてほしいと言う内容の文書を弁護士から送付することで,依頼者の書き込みに対抗する意思の強さを伝えることができますし,そのような文書を受け取った者で実際に書き込みを行った者は,依頼者(書き込み被害者)を貶めようという強い意思をもっていない限り,自分が被るリスクを考慮できれば,書き込みを削除したり,以後の書き込みを控えるのが通常です。
 ただ,この場合は,相手が発信者ではない可能性がありますので,決めつけたような内容は送れません。

 このようにして解決する事例も多くあり,また,訴訟手続を使わない解決のほうが解決までの時間が短く,費用も比較的低く済むことが多いので,法的な請求が難しい(厳しい)場合でも,一度,御相談ください。

2017年2月6日月曜日

インターネット上の逮捕歴の検索結果の削除に関する最高裁判例(平成29年1月31日決定)

平成29年1月31日最高裁判所第三小法廷
検索事業者に対し,自己のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋を検索結果から削除することを求めることができる場合
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/482/086482_hanrei.pdf

忘れられる権利というものが,近年,論じられていますが,最高裁は,このような権利を単体として認めるということはせずに,重体のプライバシー権の範囲の中で判断するということとしました。

①まず,逮捕歴については,「児童買春をしたとの被疑事実に基
づき逮捕されたという本件事実は,他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではある」として,プライバシーの範囲内の事実としながら,
②「児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項である」
としました。
 
 そうすると,刑事罰のあるものは,全部公共の利害に関する事項のようにも思いますが,窃盗や傷害,その他の犯罪と犯罪の種別によって,公共の利害性はかわってくるのでしょうか。

そして,
 「検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記
事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」
として,一応削除は可能としながら,「優越することが明らか」とかなりハードルの高い基準を設けました。

 この基準が,検索結果だけではなく,投稿記事自体の削除についても,適用されるとすると,従前よりも,投稿記事の削除がむずかしくなるのではないかと思います。