2016年7月15日金曜日

司法書士に支払った過払金回収の依頼料を取り戻せる場合(最高裁平成28年6月29日判決)

平成28年6月27日  最高裁判所第一小法廷 判決
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85969
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/969/085969_hanrei.pdf

 認定司法書士という,訴額140万円以下の紛争について,弁護士業務と同じ業務を行える(通常は,紛争の解決の業務は弁護士しか行えない。行うと弁護士法違反となり,刑事罰もある)司法書士がいます。
 
 この訴額140万円以下の紛争という意味について,債務整理,過払金返還請求では,どの範囲となるのかについて,司法書士側,弁護士会側で見解が分かれていました。
 
 最高裁判所は,基準の明確化が依頼者の利益に資するとして,債務整理の場合,個別の債権ごとに,請求額が140万円以下の場合,認定司法書士の権限に属し,そうでない場合は,業務を行うことができないとしました。

 そして,業務を行うことができない場合は,違法な業務を行って,報酬を得たのであるから,その報酬については,返還義務を負うとしました。

 このため,司法書士に債務整理を依頼し,ある会社について,請求額が140万円以上あった方については,その司法書士に支払った報酬(他の業務との関係で一部の場合もあり,全部の場合もある)の返還を求めることができます。

 私の聞く限りでは,過払金請求の業務を行う認定司法書士事務所の多くは,高額の(弁護士一般が定める平均的な報酬基準より高額の)報酬をとっていたようですので,司法書士に依頼をしていた方で,報酬に不服のある方は,依頼した債務整理の請求額を確認した上で,報酬返還請求されるとよいでしょう。
 請求できるかわからない方は,お近くの弁護士に,ご相談されるとよいでしょう。



発信者情報開示の相談前に集めておくべき証拠について

 発信者情報開示の御相談,御依頼を受けることが多くなってきましたが,御相談前に,依頼者のほうで集めておくべき証拠について,お話ししたいと思います。

 まずは,開示をもとめたいネット上の記事自体です。電子掲示板への書き込みであれば,該当のレスとその前後のレスを印刷しておく必要があります。
 依頼者または他人の依頼により,相談時には,ネット上の記事が削除されていることもあります。記事と一緒に発信者の特定情報(電子ログ)も削除されていれば発信者情報開示できませんが,掲示板のシステムによっては残っている場合もありますので,保存できるときに保存しておくと安心です。

 つぎに,開示を求めたいネット上の記事の内容が虚偽,嘘であれば,虚偽,嘘であるということがはっきりわかる証拠(書類)などあれば,それも,早めに集めておくとよいです。

 ご相談が比較的多い,風俗にお勤めの方の氏名,住所等が記載された場合は,源氏名を使用されていることが多いですので,ご自身(実名表記)がどの名前の店で,どの名前(源氏名)で仕事をしているのかがわかる資料(書類)を準備する必要があります。(御相談者自身の権利侵害であることを立証するために証拠になります)


 通常は,このような資料を持っていることはないと思いますので,勤めているお店に頼んで,在籍証明書(実名,店舗名,源氏名,在籍時期を記載した,お店の運営者の印鑑のある書面)を発行してもらうようにします。
 雇用契約書や給与明細書も一部代わりにはなりえますが,実名か源氏名のどちらかしか記載されていないと思いますので,在籍証明書を発行してもらうのが一番かと思います。


2016年7月8日金曜日

解決事例2(個人経営の事業の誹謗中傷をするスレッド全体の削除例)

 ある電子掲示板において,個人経営の事業に関するスレッドがたてられていました。
 
 スレッド作成者自体が,このお店や代表者に敵意をもっているようで,当該スレッド内のレスの多くは,誹謗中傷でしたが,名誉毀損とまでいえるものは,全体の中で1,2割程度でした。
 
 しかし,スレッド全体が,このお店や代表者の誹謗中傷を内容とするものであり,依頼者は,スレッド全体の削除を希望していました。
 
 プロバイダ責任制限法に基づくガイドラインによる削除請求では,一般的に,権利侵害がある個別のレスの削除しかできないことになっています。
 
 しかしながら,この電子掲示板のシステムを利用し,電子掲示板管理者にある部分の削除を請求することにより,スレッド全体の削除(非表示)を達成することができ,依頼者の希望に沿うことができました。
 
 この方法については,ある程度,ネット掲示板の知識のある弁護士であれば知っていることですが,電子掲示板のシステム次第でできない場合も多くありますため,削除を希望される方は,ITに詳しい弁護士に御依頼ください。
 そして,できれば,当事務所をよろしくお願いいたします。
 

解決事例1(性風俗従事者が自己の氏名,住所等のプライバシー情報を掲載された場合)

 性風俗関連については,いろいろな電子掲示板上で,特定のお店や特定の性風俗嬢に関する話題が取り上げられています。
 一方,性風俗業に従事する女性(性風俗嬢)は,一般に,このような仕事をしていることを近親者・知人に知られてたくないと考え,また,ストーカー被害を避けるため,自己の氏名や住所,連絡先等のプライバシー情報を隠して,仕事をしています。
 このように,性風俗嬢が,自己の氏名や氏名や住所,連絡先等のプライバシー情報を,他人に秘匿したいという利益は保護されるべきであり,これをみだりに電子掲示板上に記載する行為は,権利侵害行為として違法となると考えられます。

 発信者情報開示請求訴訟においても,個人が特定できるような形で,性風俗嬢の氏名や住所等が記載された場合は,権利侵害を認め,発信者情報が開示されるということが一般化しつつあるようです。

 一方,記載内容から,個人が明確に特定されるとはいえない場合には,権利侵害があるか微妙になります。
 プロバイダ責任制限法の発信者情報開示請求の条項は,「権利侵害が明らか」な場合に開示を認めるとなっており,権利侵害を裁判所に認めてもらえないと,発信者情報開示請求訴訟で敗訴となってしまいます。
 
 当事務所で取り扱った案件ですが,依頼者(性風俗業従事者)の実名(フルネーム)でもない,住所でもない情報(しかし,依頼者にたどり着く可能性のある情報)が電子掲示板に掲載された事案で,依頼者にたどり着く可能性が具体的にあること,その場合に依頼者に多大な損害があることなどを,丁寧に,主張,立証し,発信者情報開示請求訴訟において,認容判決を得,プロバイダに発信者情報を開示してもらうことができました。

発信者情報開示請求6(発信者情報開示請求訴訟2)

 発信者情報開示請求訴訟を行った場合,相手プロバイダやキャリアが発信者に対して行った照会で具体的反論がでない限り,相手プロバイダやキャリアが内容について具体的に争ってくることはあまりありません。
 一方,形式的な反論(当該通信が書き込みにかかる通信かは不明,権利侵害が明らかではないなど)はしてきますので,発信者情報開示請求の要件を全部満たす内容の証拠を付ける必要があります。
 この意味で,発信者情報開示請求訴訟は,裁判所を使った開示の許可手続の性質であるといえるでしょう。
 早ければ,第1回期日(訴状記載の主張,答弁書での反論),第2回期日(開示請求者(原告)の再反論)の2回で,審理は終結し,第3回期日に判決ということになります。
 そして,認容判決が出されると,相手プロバイダやキャリアは,遅くとも判決確定をまって(確定前に開示してくるところもあります),発信者情報を開示してきます。